記事番号: 1-2920
公開日 2021年07月30日
更新日 2021年07月30日
甲州市教育委員会では、市内に所在するブドウ栽培・ワイン醸造に関する資料の整備を積極的に進めています。現在、公益財団法人山梨文化財研究所に委託して、ブドウ栽培とワイン醸造の技術を学ぶべく、明治10年(1877)フランスに留学した伝習生高野正誠が刊行した『葡萄三説』の草稿の解読調査と筆耕を行っています。
『葡萄三説』とは、「第一編葡萄園開設すべきの説」、「第二編葡萄栽培説」、「第三編葡萄醸酒説」の三説からなる、フランス式の一大ブドウ園開設構想をまとめた概説書です。当時、ワインの本場フランスにおけるブドウ栽培・ワイン醸造の技術、道具類まで具体的に書かれた著書が少ない中、明治23年(1890)に刊行されると、ブドウ栽培とワイン醸造を志す者の良き教科書として全国に普及しました。
草稿には朱書きや貼り紙で校正がされており、刊行に至るまでの経過を読み取れます。写真上段の〇版は1回目の校正、下段の△版は1回目の校正を踏まえて2回目の校正がされています。また、「前田正名 校閲」との記載から、前田正名も校正に携わっていることがわかります。前田は、明治政府の殖産興業政策の立案・実践した中心人物で、三田育種場長、パリ万国博覧会事務官(後に事務官長)を務めました。高野と土屋龍憲(助次朗)のフランス留学は、前田が県令藤村紫朗に働きかけをしたことで実現し、留学期間中も2人を手厚く支えた人物です。
■『葡萄三説』の草稿
■朱書きで校正が記入されている(葡萄三説草稿第1巻)
また、高野正誠の生家から『葡萄三説』の草稿とともに、『葡萄三説』をもとに一大ブドウ園開設の協力を求めて、松方正義、桂二郎(桂太郎の弟)らへ宛てたハガキやその返書も発見されています。
当時の高野正誠の一大ブドウ園構想や交流関係が垣間見える史料で、草稿とともに解読調査を進め、調査成果については順次公開していきます。
閲覧情報
『葡萄三説』
■甲州市立勝沼図書館にて閲覧ができます。※館内利用資料
■国立国会図書館デジタルコレクションにてデジタル公開されています。
『明治十年仝十一年中往復記録』
■報告書『明治十年仝十一年中往復記録』
■YouTube 甲州市立勝沼図書館
ぶどうとワインの資料展連動企画 連続セミナー『「明治十年仝十一年中往復記録」を読む』最終回