山梨と岩手をつなぐパン屋さん
定住型 起業
甲州市に移住後、2021年12月にベーカリー「パンとカジモト」を開業された梶本真さん。
今回は梶本さんのお仕事のこだわりと甲州市に移住するまでのお話を伺いました。
まず、梶本さんがパン作りの道に進んだきっかけを教えてください。
梶本さん(以下、梶本) 父がパンを好きで、スーパーのパンではなくパン屋さんのパンを1本買いするような家だったんです。
小学生の時、家でパン作りをした記憶もあります。その影響もありパンは良いなと思っていました。なんですかね、パンの香りが良かったんでしょうね。上京して予備校に通っていた時、道の途中でパンの良い匂いがしたんです。大学進学のことで悩んでいた時に、その香りは少し気分を上げてくれました。香りだけでなく、美味しさも僕をパンの道に進ませるには十分な要因でした。
専門学校を卒業した後は、どうされたのですか。
梶本 神奈川と東京の店で修行しました。25歳の時、3ヶ月フランスに行って、最初の1週間でファームステイをしました。
そこのファームは90%が自給自足で、牛を飼育し、牛乳からチーズやヨーグルトを作り、野菜や果実も無農薬。その果実の一つであったリンゴからジュースやジャムを作り、畑で育てた小麦からパンを作って生活していました。25歳の僕にとってそれはすごく新鮮な環境でした。フランスでの体験が今のパン作りに対する考えや姿勢に大きく影響していますね。「感性が豊かな25歳までに行きなよ」と先輩に言われてフランスに行ったのが正解でした。フランスから帰国した後、ベーカリーもある東京のレストランで働き、実家の岩手に戻り、妹夫婦とベーカリーカフェを開業しました。岩手では、空いた時間に農家で働きたいと思って、フルーツ農家も手伝っていました。
その後に、ご実家の岩手から山梨に移住するきっかけを教えてください。
梶本 同じパン職人の妻と結婚することになり、どこでパン屋を開こうかという話になりました。岩手か、東京か、妻の実家の山梨か。二人で話し合った結果、山梨に行くことを決めました。都留市や韮崎市も車で走ってみたのですが、甲州市のまちの雰囲気が良かったんです。勝沼のこの地域に入ると、空気が変わった感じがあるんですよ。風を感じるというか。それがすごく気持ち良くて、勝沼に決めたようなものです。移住はお店探しよりも、住まい探しが先でした。住みたいところに住みたいという気持ちが一番で、まず市役所に連絡をして、空き家を探すことに。市役所の方にはいろいろなところを案内していただきました。なかなか条件に合うところが見つからなかったのですが、まず住むアパートをなんとか見つけ、今のお店は知り合いの農家さんが偶然紹介してくれて見つけました。お店の第一条件である駐車場はクリアしているし、なによりぶどう棚がある。日本全国探しても駐車場がぶどう棚の下にあるパン屋はないんじゃないかと思い決めました。
移住を考え出してから行動に移していく間にご夫婦でどのようなステップを踏んでいきましたか。
梶本 妻が僕に合わせてくれたのかなと思います。僕が岩手から来るので、僕が住みたいと思うところに住もうと思ってくれたみたいで。妻の東京の仕事が辞められるタイミングがわかっていたので、そのタイミングで移住しようと動いたのですが、わりとスムーズに進みました。
梶本さんはお店作りの資金集めにクラウドファンディングをして、約113万円の資金を集められたそうですが、もともとやろうと決めていたのですか。
梶本 最初は僕がやろうと言い出して、途中で本当にすることが良いのか迷ってしまったのですが、妻がせっかくならやってみたらという後押しをしてくれて、やり遂げられました。宣伝という目的もあったのでリターンでパンを送ることにしました。どうやったらファンがうまく増えるのか知るためにも挑戦して良かったなと今は思えます。
「パンとカジモト」のパンのどういうところを楽しんでほしいですか。
梶本 みんなに楽しんでもらえるようなパン屋でありたいと思い、バラエティーに富んだパンを揃えたいと思っています。
今(取材時の6月)は30種類くらい。香りを大事にしてパンを作りたいと思っています。パン作りのすべてが良くないと香りが良くならないんです。パン屋の匂い=幸せの香りと思ってもらえるような自然の発酵で生み出される香りの良さを楽しんでもらいたいです。具材には旬のものを使い、ハード系のパンでは、買ってから3日目まで美味しいパン作りを意識しています。
パン作りのやりがいはどんなところにありますか。
梶本 毎日同じようなものを作るけれども、何かが違うんです。ここに来てからは特にそれを感じます。冬のほうが酵母の活動が緩やかなので安定しやすいのですが、この時期(6月)は湿度もあるし、気温も高いので、酵母が活発になって、発酵にばらつきが出てきます。でもそこが難しいけど面白いんです。フルーツなどの素材を見て、どうパンに生かしたら美味しくなるかを考えるのも面白いです。パンだけではなく、フルーツや野菜の下処理自体も工夫しています。だいたいイメージ通りにいかないのですが、試すのは楽しいです。最近うまくいったのは3種類のナッツを使ったパンです。ナッツのパンは結構難しいんです。一晩おくとナッツがパンの水分を吸って、パンが硬くなりやすく、ボソボソに乾燥しやすいので。
もちろん来てくださる方が、美味しいと言ってくれるのは嬉しいですし、さらにその方がその美味しさをシェアしたいという気持ちになってくれたらすごく嬉しいですね。
甲州市に住んでみていかがですか。
梶本 ほど良い田舎感が良いですね。東京とそんなに遠くないというのも、この場所の良さの一つです。例えば、甲州市より西側の峡北エリアも良かったのですが、東京と距離が少しできてしまう。私たちの店にパンを買いに来られるお客さんも同じだと思っていて、想像以上に県外ナンバーが多いんです。観光客もいますし、山梨に家を持っていて東京にも住んでいる二拠点生活のお客さんもいたりもします。当初は、あまり人がいないところで、お客さんが来るかなという不安も少なからずあったのですが、この地域でワイン巡りをする人もいますし、ぶどうのシーズンになると車がひっきりなしに通るので、そこはひとまず安心しましたね。ただ夏の暑さと冬の寒さは住んでみないとわからなかったですね。そこは想像以上でした(笑)。
移住してみて、地域の方々と良い距離感でお付き合いしていくポイントはありますか。
梶本 地域の人たちからのお誘いを大事にしています。まわりでワイナリーや果樹園をやっている方もいて、イベントのお誘いもあったり地域の行事に呼んでくれたりするので、できるだけ参加するようにしています。また、パンをよく買ってくださる方もいるので、私たちもみなさんの作るフルーツや野菜をパンで使ったりしています。
最後に、これからやってみたいことを聞かせてください。
梶本 これからは地元のものを作っている人と繋がって、一緒にやっていきたいです。フルーツやワインももっと使いたいです。
甲州市とか山梨市とかで作られた果実など。農家さん、生産者と近いのがこっちに来てすごく良いなと思ったことです。他には、僕の地元の岩手のものを使ってパンを作ってみたいですね。岩手のリンゴを使ってパンを作ったりして、岩手の素敵なところもパンを通して紹介したいです。以前SNSで「岩手のリンゴを明日販売します」とお知らせしたことがあって、その時に買いに来てくれる人がたくさんいて嬉しかったですね。さらに、山梨で作ったパンを岩手で販売したいなとも思っています。クラウドファンディングのコンセプトは「つなぐ」パン屋でした。岩手の人にもこのまちの良さを知ってもらい、甲州市に来てもらえたら良いなと。
プロフィール
梶本真さん、美鈴さん
移住前:東京都
移住エリア:勝沼
2021年12月に甲州市に移住。ベーカリー「パンとカジモト」を開業し、ぶどう棚の下で地元野菜やフルーツなどを使ったパンを販売している。